フーっとまず一息入れる、もう一度少しやさしくフーっと。
あれはちょうど三年前になる、当時私は長野県の上田市で廃校になった小学校を丸ごと使って、さまざまなアート集めた展覧会の運営の中心にいた。
小林知久がこの展覧会に遊びに来てくれたとき、私は充実のあまり身も心も燃焼しきって、それを通り越して解放されきっていた。 それというのも、展覧会の企画と作家として出品する、という二足のわらじを無理やり履き、突っ走っていたからだ。
夏真っ盛りの展覧会会場である小学校の校庭。その片隅で小林知久は、イーゼルを立て、キャンバスに向かって、油絵を描きだしたのである。
「美術の展覧会に来たから、せっかくだから久しぶりに絵でも描いてみよう」
楽しそうに風景を描く彼の後姿は、田舎の風景に優しくマッチしていた。
知久からまじめに、市議会議員に立候補する話を聞いたのは、絵の具の匂いのする芝生の上であった。